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エコドライブはコミュニケーションである
(松村暢彦/大阪大学大学院工学研究科 助教授)

松村暢彦「エコドライブは、きちんと行えば、燃費の改善に効果がある」ということは、ずいぶん以前から知られていました。しかし、たとえば エコドライブとは急加速はしないことです と概念的にいわれても、具体的にどのように運転すればよいかわからないため、きちんと行うことが難しい状況にありました。ところが最近になって、機械メーカー各社が自動車の運転状況をモニタリングできる車載機器を開発したことで、状況が変わってきました。たとえば、理想的なエコドライブに照らして急発進の動きをした際に、すかざず「急発進です!」と機械が注意してくれるのです。これで、機械が注意しない運転がエコドライブであるように、具体的に運転方法がわかるようになりました。このように、きちんとエコドライブを行うことによって、燃費が10〜20%も改善します。燃費が改善するということは、次のような四つの利点があります。

 

一石四鳥の効果

 

  1. ガソリンの消費量が減りますから、経済的にも燃料費が同じだけ減ります。
  2. ガソリンが燃える量が減るということは、二酸化炭素や大気汚染物質である窒素酸化物の排出量が減ります。
  3. 緩やかな発進は、衝突事故を減らすことになるので、交通事故も減ります。
  4. エコドライブを行うことによって、環境を大切にしようとする心が芽生えます。

 

エコドライブは一石四鳥 と呼ばれるゆえんは、ここにあります。特に2つめの環境改善は、有効な地球温暖化対策が見つからない運輸部門では、注目されています。

しかし、エコドライブが環境改善につながるからといって、無配慮に進めていってよいのでしょうか。あなたがクルマを運転する度に機械から、おまえの行動はよくない、ああしろ、こうしろといわれることを想像してみてください。とても息が詰まりますし、信号が黄色になったときなど周辺の状況から「しゃあないやん」という場面もあるかもしれません。トラックの運転手などクルマを運転することを生業としている人たちにとって、エコドライブを徹底することを突き詰めて考えれば、ロボットのような運転に調教されることに帰結します。自主的にエコドライブを実践し、自分の仕事に誇りをもってもらうには、血の通った事業所とのコミュニケーションが必須条件になります。事業所とドライバーが、長期的に考えればどのような運転をすればよいかを一緒に考える、その場に具体的なデータを提供することで、エコドライブ運転を支援する姿勢が重要です。つまり、ドライバー教育を日頃から心がけてきた企業でなければ、エコドライブは成功しないということになります。

 

正直者がばかをみない

また、行政の立場でもエコドライブを燃費基準の引き上げのような従来の環境対策と同じように考えて、車載機器をつければ環境改善がなされるのではないことに注意が必要です。エコドライブの効果は、基本的にドライバーと事業所のコミュニケーションが生み出したものです。行政としては、事業所、ドライバーがエコドライブを行いやすい状況を作り出すために、悪質な事業所、ドライバーを徹底的に取り締まるなど、正直者がばかをみない状況を作り出す必要があります。また、エコドライブを率先して行う事業所を応援する消費者の意識を作り出す仕掛けをつくっていくことも求められています。

車載機器の登場で、エコドライブを進めやすい状況にある今こそ、 エコドライブはコミュニケーションから始まり、コミュニケーションに終わる ことを各主体が確認しつつ、進めていかなければなりません。